書評

京都先端科学大学人文学部長 教授
東北大学大学院文学研究科 教授

佐藤 嘉倫

 本書は、学術的研究書として高く評価できるだけでなく、英語プレゼンテーションの指導者にとっても指導法に関する有益な提案をしている。
 近年「エビデンスに基づいた~」というフレーズがよく使われる。この流れに乗って本書の特徴を一言で表せば「エビデンスに基づいた科学技術英語プレゼンテーション指導法の提案」である。本書で提示された指導法は有効であることが実証的に示されており、大学や研究機関で学生の英語プレゼンテーションの指導に従事している方々にぜひ読んでいただきたい好著である。個人的に重要だと思ったのは、英語での質疑応答におけるスキルとして、質問を聞き取り、理解する能力の向上を目指した指導と練習により力を入れるべきだという主張である。これは当たり前のようで見過ごされてきた視点である。
 島村氏が実証研究に基づいて提案されている指導法をより普及させるために、本書の続編として、「指導者向けの実用書」も書いていただきたい。それにより、日本人による英語プレゼンテーションのスキルは大きく向上するだろう。


大阪大学大学院言語文化研究科 教授

小口 一郎

 理系英語プレゼンテーションは、最も重要なアカデミック・コミュニケーションの一つだが、研究の蓄積が十分ではなく教育的知見も乏しかった。
 本書はこのテーマに果敢に取り組み、日本の研究者が「国際的に対等な関係で」学術交流し、「国際協力」と「さらなる学術の発展」を実現できることを目指した研究の成果である。 
 科学の最前線に立つ一流の研究者から言語データを収集し、「ジャンル」や「ディスコース・コミュニティ」などの観点から談話的特徴を実証的に解明し、指導法に導いたことは高い評価に値する。質疑応答という未踏の領域を解明する端緒をつけたことも、画期的な貢献と言えるだろう。
 なお、すでに著者は着手していると思われるが、今後NSへと研究を拡張するとともに、優れたテキストブックの開発も期待したい。本書を基盤に、著者の研究がさらに飛躍的に発展することを願う。

福島県立医科大学
保健科学部診療放射線科学科 教授

長谷川 功紀

 国際化が進む中、理系学生のキャリア形成のためにも、英語によるプレゼンテーション技法の指導は必須となる。しかし、教員にとっても発表技法を体系的に学んだ機会は少なく、経験則から指導するしかない。そして、プレゼンテーションの専門家ではないので、時に指導内容が曖昧になるなど不安も多い。そんな教員に本書を薦める。
 本書は理系研究者に焦点を当て、そのプレゼンテーション能力向上のための指導法が体系的にまとめられている。効果的な発表の構成、質疑応答、発表態度などの細部に至るまで、多くのエビデンスに基づき最良の解を与えてくれる。また、自分自身の英語でのプレゼン技術を再考することで、さらなる向上も期待できる理系研究者必携の書である。

インタビュー
島村 東世子

 2021 年 2 月に当会より刊行した『理系研究者からの知見に基づく科学技術英語プレゼンテ ーション指導法』について、著者の島村東世子先生に、本書の意義や役割など、様々なお話をうかがいました。(聞き手:大阪大学出版会 土橋)

土橋 本日はお時間をいただき、ありがとうございます。今日のインタビューでは、島村先生が、当会から出版された書籍、『理系研究者からの知見に基づく科学技術英語プレゼンテーション指導法』について、読者を代表して、色々とお話をおうかがいしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

島村 こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。

より効果的な指導方法の確立へ

土橋 まず、島村先生が、今回この『理系研究者からの知見に基づく科学技術英語プレゼンテーション指導法』を出版された背景についておうかがいしたいのですが。

島村 私は理系の研究者や技術者の方々、そして大学生の方々に、科学技術に関する英語プレゼンテーション指導をしているのですが、日本の科学技術をより広く世界に発信するには、まず、日本人の英語プレゼンテーションスキルを向上させることが不可欠だと考えています。
 もちろん、海外に市場展開する企業のみならず、高等教育においても英語プレゼンテーションスキルの重要性は広く認識されていますが、英語での理系の研究発表、つまり、科学技術英語プレゼンテーションを効果的に行うための指導、となると、まだまだハードルが高い状況のように思われます。実際のところ、大学で行われている英語プレゼンテーション指導においても、「何をどう指導するのか?」、「指導の目標とする『良い英語プレゼンテーション』とはどういうものなのか」など、英語プレゼンテーション教育の基盤が確立していないことは、様々な研究で報告されています。つまり、教える人によって、指導内容や評価基準が変わってしまうことが否めない状況です。

 また、現在行われている英語プレゼンテーション指導は、オーラルプレゼンテーション、つまりスピーチの部分に偏りがちです。それは、授業時間の制限から、スピーチ部分しかカバーできない、という問題もあると思われますが、根本的に、英語での質疑応答の研究や教育的示唆が不足していることに起因しているように思われます。このような様々な問題点が解決されないと、単に英語が母国語でない ために、日本の素晴らしい研究や技術が、正当に評価されないケースが起こり得るのでは……と、私はずっと懸念を抱いていました。
 そこで、これらの問題を少しでも改善していくことができればと思い、科学技術英語プレゼンテーションの研究に取り組み、今回、本書において、これまでの研究をまとめることができました。

土橋 なるほど。日本の研究成果を、よりすばやく、かつ効果的に世界に届けるためには、まず、英語でのプレゼンテーション力の育成が重要課題でありながら、その育成のための指導法が確立していない、と感じられているのですね。
 そうした背景から、島村先生は、現状の英語プレゼンテーション指導を改善する具体策を提案、あるいは、現状に不足している部分を補完することを目指して、本書を出版されたということでしょうか。

島村 はい、そうです。まず、そのためには、スピーチ部分から質疑応答までを体系立てて指導法を開発することが必要だと思いました。むろん、それらの指導法は、単なる私の考えではなく、その指導法をより多くの方々に使っていただくためにも、実証研究を基盤としたものにする必要があると思いました。そして、開発した指導法が教育効果を持っていることを何らかの形で実証することを目指しました。
 私の研究や指導は、英語のノンネイティブスピーカーである日本人研究者が不利な立場になることがないように、そのために、何か少しでもお役に立てれば、という思いがベースとなっています。特に、大学生や若手研究者の方々が、英語だからと言って消極的にならず、対等な関係で研究について話し合える、そんな状況作りに向かって、ほんのわずかでもお手伝いできれば、という気持ちが私の原動力になっていますので、この度、本書を出版することができましたことをとても感謝しています。

土橋 そのようなお気持ちが、この『理系研究者からの知見に基づく科学技術英語プレゼンテーション指導法』を生み出したのですね。本書からも先生の情熱が伝わってきます。

本書の「4つの特長」とは

土橋 では次に、本書の特長を教えていただけますでしょうか?

島村 やはり、一番大きなポイントは「研究に基づいて構築された指導法である」、ということだと思います。実は、科学技術英語プレゼンテーションの研究を行う場合、データ取得が容易ではありません。なぜならば、研究上の機密情報が含まれているからです。そのため、本書での研究が行えたことは本当にありがたく思っています。さらに、ご提供いただいたデータの1つ1つがとても興味深く、自分がこれまで思い込んでいたことや予想と違ったデータや分析結果に遭遇した時は、驚きと同時に嬉しい気持ちになりました。今、思い出すと、色々な方の顔が浮かんできます。研究にご協力してくださった方々に、この場を借りて心からお礼を述べたいと思います。
 次の特長は、やはり「英語での質疑応答の研究」に踏み込んだことでしょう。英語での質疑応答の研究と指導法構築は、比較的、新しい試みではないかと思います。基本的に、「英語プレゼンテーションの研究は未だ多くない」と述べている研究が多いのですが、最近は、スピーチ部分の研究は増えてきたように思われます。しかし、現段階では、やっとスピーチ部分の研究が色々と行われ始めた状況で、英語での質疑応答の研究は希少です。当然、教育的示唆も不足していますので、本書において、スピーチ部分から質疑応答までを体系立てて研究している点は大きな特長の 1 つだと思っています。
 3つ目の特長は、ESP 教育において重要とされている“ディスコース・コミュニティ”のメンバーから得た知見を反映させていることです。“ディスコース・コミュニティ”とは、簡単に言うと「その領域の専門家集団」のことですが、本書においては、科学技術英語プレゼンテーションを実際に頻繁に行う理系の研究者がディスコース・コミュニティのメンバーとなります。その方々から取得したデータに基づいて研究している点は、ESP 教育においても重要な意義を持つと同時に、理系研究者の英語プレゼンテーションの実情が反映された、実践力を高める知見として、貴重なデータとなります。特に、本書の第 6 章に記載した、理系研究者らのコメントは、そのまま指導に応用できるのではないかと思います。

 4つ目の特長は、ケーススタディではありますが、構築した「科学技術英語プレゼンテーション指導法」の教育効果を実証したことです。具体的には、指導前の受講生の科学技術英語プレゼンテーションと、構築した指導法を用いた指導後の科学技術英語プレゼンテーションを理系研究者の方々に評価していただいたのです。そして、指導前と指導後の評価に有意差があるかどうかを検証しました。これについては、結果が出るまでは、けっこうドキドキしました(笑)。検証の結果、スピーチ部分も質疑応答部分も、明らかに教育効果が認められ、とても嬉しかったです。評価項目に関しては、スピーチ部分が 16 項目、質疑応答は 5 項目あったのですが、すべて指導の効果が認められました。評価の項目も、研究に基づいて設定したものです。詳しくは、本書にて(笑)。

土橋 続きは本書をご覧くださいということですね(笑)。私も、いま島村先生にあげていただいた点は、他にはない本書の特長だと思いますし、何より数値でしっかりと教育効果が示されている点は説得力がありますね。

英語での質疑応答の重要スキルとは

土橋 本書は、すぐに役立つ実践的な内容から、学びの深化へとつながる理論的な内容が、いたるところにちりばめられていたのですが、私が、特に印象に残った箇所は、本書の肝でもある質疑応答について、6 つの重要スキルが示されていたところです。中でも「議論を発展させる質疑応答」などは、英語にかぎらずあらゆる言語のプレゼンテーションでも重要な要素だと思います。とは言え、本書で述べておられる通り、英語での質疑応答を円滑に行うための重要スキルは、段階的なスキルですね。それらは、どのようにして習得していけば良いのでしょうか。

島村 まずは、それぞれのレベルに応じて、解決すべき課題があります。それらの課題を指導する側がいかに明確にできるかが重要です。そして、学習者側に、自分はどの段階にいるのかを認識させることも必要です。そもそも質問自体が理解できていない場合もありますし、質問は理解できているけれど、回答する際に英語がぱっと出てこない、などという人もいますし、様々ですから。

土橋 確かにそうですね。英語での質疑応答はむずかしい、と一言で言われがちですが、なぜ、むずかしいのか? を明確にした上で、指導、または練習することが大事である、ということですね。

島村 そうです。本書では、「英語での質疑応答は、なぜむずかしいのか?」を研究し、その要因を明らかにしました。その上で、検出された難易性の要因を改善するための様々な方策を提示しています。たとえば、英語での質疑応答によく使われる表現やフレーズをより多く学習し、聞いた時に自動化できるような練習を指導の中に組み込むことや、質問のポイントを把握するために、質問者自身が能動的な働きかけ(質問)を行うこと、また、精神的な動揺を軽減するための事前準備や練習方法についても提示しています。

土橋 様々な方法があるのですね。私自身も、英語にかぎらず、日本語でも質疑応答は、その場で即座に対応することを求められ、いつもハラハラ、ドキドキしますので、その不安を軽減させるためのストラテジーなどを取り入れていきたいです。また、本書には質疑応答の状況別回答フレーズの例もありますので、それぞれの場面に応じた内容を活用することで、総合的なプレゼンテーション力が向上しそうですね。

島村 ええ。状況別フレーズの運用力が身につけば、回答への不安感も払しょくできます。特に、質問に答えられない状況でのフレーズは、安心感を与えてくれるでしょうね。様々な状況別フレーズをさっと言えるようになれば、英語での質疑応答がかなり快適になると思います。
 また、想定質問とその回答の作成をお薦めすると、「その質問が聞かれなかったら意味がないのでは?」とおっしゃる方もいるのですが、実は、そうではありません。仮に想定した質問が実際に聞かれなくても、十分効果があるのです。なぜなら、あらかじめ英語で想定質問とその回答を準備することで、自分の研究に対する語彙や表現が引き出しやすくなるのです。たとえば、英語が苦手、という方でも、表現したいことの単語がぱっと思い出せれば、それらの語をつなぎながら、なんとか答えることができます。そして、英語で答えることができた、という体験が次への自信につながります。ただし、必ず声に出して練習することが大切です。頭でわかっていても、それが発話につながるかどうかは別問題なので、頭で理解するよりも、口に覚えてもらう、という感じです。
 まずは質問に答えることができれば、6 つの重要スキルの中で一番高いレベルとなる「議論を発展させる」、という状況につながる可能性も出てきますよね。議論が活発化することで、自身の研究内容の改善点やさらなる可能性を見つけることができれば、これまで苦手と思っていた英語での質疑応答も、どんどん楽しみに変わって行くのではないでしょうか。

学術の国際交流を活性化する

土橋 まさに楽しみながら議論を発展させ、それを自らの研究の発展にも結びつける。このことは、プレゼンテーションを行う本来の目的にもつながりますね。さらにいえば、能動的な議論を通じて、研究者同士の学術的な国際交流の活性化にも役立つのではないかと思います。

島村 ありがとうございます。実際、私たちは、英語に関してはノンネイティブスピーカーですし、中には、英語でのプレゼンテーションに苦手意識を持っておられる方もいらっしゃると思うのです。また、そういった苦手意識が英語の発表の機会を遠ざけてしまうかもしれませんね。けれども、それはその人にとって大きな機会損失ですし、社会にとっても大きな損失です。ですから、本書に記載した「科学技術英語プレゼンテーション指導法」が、広く社会で用いられ、その結果、英語プレゼンテーションに対して苦手意識を持っておられた方が、「今は、英語で発表することが楽しみになっている!」という気持ちに変わるきっかけなれば、本当に嬉しく思います。
 本書を通じて、日本の科学技術力を国際的に発信する力の強化や、グローバルに活躍する人材の育成に、少しでもお役に立つことができれば、これほど嬉しいことはありません。

土橋 私もそのような状況を思いうかべると、わくわくした気持ちになります。また本書の電子書籍も発売していますので、出版社としても、一人でも多く方に手に取っていただき、様々なシーンで活用していただけるようにしていきたいと思います。

現在、そして未来の読者へ

土橋 それでは、最後に、私自身も出版社の立場で日々の動きをみていると、本書の潜在読者の多さに気づくことがありますが、島村先生ご自身は、特にどういった方々に読んでいただきたいとお考えでしょうか。

島村 もちろん英語のプレゼンテーションに興味のある方すべてに読んでいただきたいのですが、まずは科学技術英語プレゼンテーションにかぎらず、英語プレゼンテーションを指導しておられる教員の方々に読んでいただきたいと思います。それと同時に、これから国際的に活躍が期待される研究者の方々、研究者を目指す方々、そして、英語で研究発表をする機会のある学生の方々にも是非読んでいただきたいと思います。さらに、本書には、英語のみならず、日本語のプレゼンテーションにも応用できるエッセンスがたくさん詰まっていますので、日本語でプレゼンテーションをされる方々にも手に取っていただければと思います。

土橋 確かに、「教える」側、「行う」側、「学ぶ」側のそれぞれの視点を理解することは、英語プレゼンテーションのより深い学びへとつながっていきますね。
また、日本語のプレゼンテーションにも応用できる点は、実は、私自身も悩んでいたところがあったのですが、本書には、解決のヒントになることがたくさん書かれていて、とても参考になりました。今は、いつでも読めるように手の届くとことに置いています。

島村 そのように言ってくださって嬉しいです。少しでも褒めていただけると、努力が報われた気持ちになります。

土橋 最後に読者へ向けたメッセージをいただけますでしょうか。

島村 先ほども申し上げた通り、私は、日本の素晴らしい研究が、より世界に発信されるためのお手伝いが少しでもできれば、と思っています。この本を手に取っていただくことで、「英語プレゼンテーションの指導に手ごたえを感じる」あるいは「英語での研究発表がうまく行った」「聴衆からポジティブなフィードバックを得た」など、読者の方々に何らかのお返しができれば、こんなに嬉しいことはありません。

土橋 これからも、一人でも多くの方に、島村先生の『理系研究者からの知見に基づく科学技術英語プレゼンテーション指導法」が届くことを願っています。

本日はありがとうございました。

島村 ありがとうございました。

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